2006.03.31

ある極右政党のトランスファー理論
Posted by:早尾貴紀
ある極右政党の新トランスファー理論
イスラエルのクネセト選挙に関して、三大政党(カディマ・労働党・リクード)のレース以外に注目すべき争点をもうひとつ書こうと思っていたのですが、遅くなってしまい、選挙が終わってしまいました。すみません。
この「その2」で書こうと思っていたのは、右派の小政党が果たす役割についてです。「右派」とすれば、もちろんリクードが右派ですし、リクードから分派して最大政党になったカディマだって右派です(それでリクードは「極右化」したとも言えます)。ただし、政権が近いことで一定程度現実路線への舵取りが求められる大政党は、良くも悪くも、「足枷」をはめられます。それに対して、小政党は、左派であろうと右派であろうと、自らの主張を遠慮なく訴えることができるため、主義主張がかなり明示化されます。
そうしたなかで、選挙前からとりわけ目を引いていたのが、「イスラエル・ベイテヌ」(我が家イスラエル)という党と、その党首であるアヴィグドール・リーベルマンの動向でした。自身がロシア出身の移民であり、ロシア系移民の強い支持を集めているリーベルマンは、イスラエル・アラブと呼ばれる、イスラエル国籍のパレスチナ人市民の「トランスファー(追放)」とも言える独特の政策主張をしています。トランスファー理論だけであれば、これまでも多くの極右政党・大イスラエル主義者らが叫んできましたので、とくに目新しいものではありません。リーベルマンが注目されたのは、カディマの「一方的撤退」と「国境画定」の議論に微妙に絡む主張をしているためでした。
リーベルマンの主張は、イスラエル・アラブの多く住む地域をパレスチナ自治政府に渡し西岸地区に併合させ、それとの交換で西岸地区内部の主要ユダヤ人入植地を正式にイスラエル領にしてしまおう、というものです。土地の「対等な」交換取引で、イスラエル・パレスチナがそれぞれに純粋な領土的民族国家を手に入れられる、というのがポイントになります。とはいえ、もちろんこうした提案がすぐさまリアリティを持つわけではありません。イスラエル国民であるイスラエル・アラブの人びとがそれを望むのかという民主主義的な大原則を踏みにじっていますし、また、侵略者・占領者の側が、そもそも自分の土地でもないところを「交換材料」としてしまうことについては、あまりの傲慢さにあきれてしまいます。
しかし、、、いまのイスラエル社会では、このリーベルマンの主張が、たんなる荒唐無稽な戯言として片付けられないのが問題なのです。実際に選挙では、イスラエル・ベイテヌは、予想を上回る議席数を獲得し、リクードにも並ぶ第3グループに入る躍進をしたのですから。
まず不気味なのは、第一党で連立内閣を主導するカディマとは、選挙前からいまに至るまで、連立参加の可能性が探られていることです。カディマの「一方的撤退」と「国境画定」のラインについて、リーベルマンと妥協の余地があるのかもしれないというのです。西岸入植地の併合については言うまでもなく両者合意でしょうけれども、恐ろしいのは、法的にイスラエル領である地域を捨てるという可能性が言下に否定されずにいるほどに、アラブ系市民に対するお荷物意識は大きくなっているということです。
また、このリーベルマンが、選挙前にメレツ党首がヨッシ・ベイリンの家に招かれて会合を持ったということが議論を呼んでいました。ベイリンと言えば、オスロ合意時に労働党政権の外務次官として役割を果たしたことで知られる「和平推進派」であり、その後はメレツという政党に合流し、いまではそのメレツの党首に収まっています。メレツというのは、アラブ人であろうと女性であろうと障害者であろうと、ともかくマイノリティの人権尊重を訴える世俗政党として知られています。昨今メレツは「一方的撤退」を支持していますので、おそらくカディマ連立内閣に入るでしょう。そのメレツ党首ベイリンと、アラブ人トランスファー論のリーベルマンが一つのテーブルに着くというのはどういうことか。
接点はおそらく「ジュネーヴ合意」だろうと言われています。ベイリンは、イスラエル・パレスチナ双方の和平推進派による非公式の和平合意案「ジュネーヴ合意」の中心人物ですが、このジュネーヴ合意も国境画定のための一部「土地交換」を提案していたのです。撤去不可能な入植地の代替保証を、グリーンライン(境界線)沿いの土地をパレスチナ側に割譲することで、とりあえず「面積上は」土地を奪わないようにする、と。もちろん、入植地がパレスチナの肥沃な水源地帯を占領し、その代替地がネゲヴ砂漠だというのは、とんでもない「不等価交換」です。ただ、そういった内実の差異を保留すれば、土地交換によって国境画定をする、という発想そのものは、なんと両者に共通するのです。
ベイリンとの会談が、リーベルマンの連立参加へのワンステップになるのではないかと見られ、またそれがリーベルマン人気に跳ね返りました。多くの人びとがリーベルマンを「レイシスト」と非難するなか、なおカディマのオルメルトとベイテヌのリーベルマンは連立の枠を模索中です。
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