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2008.07.07

反シオニストのユダヤ人思想家ボヤーリン兄弟の『ディアスポラの力』、日本語訳刊行

Posted by:早尾貴紀

 反シオニストの敬虔なユダヤ人が、ユダヤ教を大事にするがゆえに、その深いユダヤ教の洞察から、シオニズムを批判する。そういう思想家の兄弟がいます。ジョナサン・ボヤーリンとダニエル・ボヤーリンです。この二人が共著で出した本『ディアスポラの力』の日本語訳を出版しました。しかも、追加論文ありの日本語版オリジナル編集。

 ジョナサン・ボヤーリン、ダニエル・ボヤーリン著
 『ディアスポラの力──ユダヤ文化の今日性をめぐる試論』
 赤尾光春・早尾貴紀訳、平凡社、2008年、4800円

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 元来のユダヤ教文化は、実は領土的な国家主義とは相反するものでした。離散の地(バビロニア)で発展した聖典タルムードの教えでは、離散を人為的に終わらせユダヤ人国家を建設することも、ユダヤ人が他民族を攻撃・支配することも、ともに神の意思に反する禁忌です。むしろ「異教徒」(ユダヤ人から見た)に囲まれたなかで、自分の宗教文化をひっそりと保持するという、ある種の共存関係を理念とし、それを実践してきたのです。
 しかし近代のシオニズム、つまりユダヤ人ナショナリズムによって、ユダヤ教は歪められました。国家と国土のために命を捧げて戦うことを厭わない兵士をつくりあげ、そしてそのことによって多様な文化背景を背負うバラバラなユダヤ人移民を国民として統合していったのです。世俗的なユダヤ・ナショナリズムによって、伝統的ユダヤ教が国家宗教に作り替えられたことを詳しく描きます。

パレスチナ・オリーブ 通信「ぜいとぅーん32号」より転載)

 また、 「 ユダヤ・ディアスポラの普遍化可能性に向けて──ボヤーリン兄弟『ディアスポラの力』」 も参照。

 とにかく、ボヤーリン兄弟自身について、日本語圏で初めての紹介になります。内容的にもけっして読みやすいものではありません。いきなり冒頭で挫折してしまわないように、以下のことをお勧めします。

  • まず「訳者あとがき」をお読みください。ボヤーリン兄弟がどういう人物で、他にどういう著作があり、どういう政治的スタンスをもっているのか、そしてその仕事にはどういう意義を見いだすことができるのか、といったことを丁寧に書きました。
  • 次に、(とくにパレスチナ/イスラエル問題に関心のある当情報センターをお読みのみなさんは)第4章「ディアスポラ──ユダヤ人アイデンティティの生成とその根拠」をお読みください。いちばん直接的にシオニズムやパレスチナ問題との関連を論じています。
  • あとは、どの章もすべて独立した論考ですので、興味のあるところを順番関係なく、それぞれ読んでいただければと思います。

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