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2005.11.27

真のディアスポラ文学?!

Posted by :早尾貴紀

 パレスチナに関心を寄せる方にはぜひとも読んでいただきたい一冊。

 ギルアド・アツモン『迷える者へのガイド』(茂木健訳、東京創元社、2004年)表紙拡大(33KB)

 中身はパンクSF小説(パロディとブラック・ジョークと下ネタのオンパレード)で、表紙はお下劣で猥褻。本屋で手にして、レジに出すのが恥ずかしい本かもしれません。が、これほどまで辛辣なイスラエル批判・シオニズム批判にはまずお目にかかれない、そんな本です。が、分野が分野ですし、出版社もSF小説を手がけている老舗ですから、マジメなパレスチナ関係者の中では話題にならなかったと思います。かくいう私も、最近偶然見つけて読んだ次第です。

 小説ですので、ネタバレにならないよう、あまり多くを書かないようにします。

 設定はこんな感じ。2012年にイスラエルが消滅。その40年後の2052年の時点から回想的に書かれたのがこの物語。イスラエル消滅後に、その文化を保存しようというドイツにある『ユダヤ民族記録協会』が、1960年イスラエル生まれの、とある有名哲学者ギュンター・ウォンカー(という架空の人物)に、その死/失踪の直前に行なった聞き書きの記録、ということになっています。ウォンカー氏は、軍人思想に過度にかぶれた(ややぶっ壊れた)愛国的シオニストとして少年時代を過ごしますが、実際の徴兵経験を経てその妄念から冷めると、イスラエルを脱出してドイツに亡命。

 「架空」と言っても、若い頃に徴兵のあたりをきっかけに、反シオニストとなって海外亡命をするという体験のくだりなどは、多分に本当の著者ギルアド・アツモン氏本人の体験が反映されているのでしょう。著者のプロフィールは、こう紹介されています。

 「ミュージシャン。1963年生まれ。イスラエルで育ち、徴兵された経験からアンチ・シオニストとなる。現在はロンドン在住。ジャズ・サクソフォニストとして優れた腕前をもち、自らのバンド、オリエント・ハウス・アンサンブルによるアルバムに『EXILE』がある。1998年から故イアン・デューリーのバックバンド、ブロックヘッズのツアーに参加しているほか、ロバート・ワイアットやサイモン・フィッシャー=ターナーとコラボレーションを行っている。」

 「オリエント・ハウス」とは、東エルサレムにあるパレスチナ解放機構の重要拠点の一つ。アルバム『EXILE』の中身もすんごいらしいのですが(訳者解説によると、ロンドン在住のパレスチナ人女性歌手が、古いイスラエルの愛国歌の歌詞をパレスチナの現状に逆転させて歌っているとか)、まだ現物を手にしていないので、これはいずれ。

 ギルアド・アツモン氏のサイトがあります。さらに興味のある方は http://www.gilad.co.uk へ。

東京創元社:『迷える者へのガイド』紹介ページ

【追記】
 ギルアド・アツモンが、パレスチナ議会選挙でハマスが圧勝したことにイスラエルや欧米が過度な拒絶反応を示していることを痛烈に批判した文章(上記サイトにも掲載されている)を、 『現代思想』の06年5月号:特集「イスラームと世界」 に翻訳掲載しました。「パレスチナ議会選挙、ハマス勝利に関する三つの考察」というタイトルです。趣旨の細部に全面的に賛同しているわけではありませんが(訳したからといって著者と同意見ではないのはもちろんです)、あくまで欧米のダブルスタンダード批判と、イスラエルのいわゆる「左派」の欺瞞への批判としては、大切なものです。
(ついでながら、このアツモンの文章の補足として、早尾が「「民主的世俗的パレスチナ」・「民主的ユダヤ国家イスラエル」・「二民族共存国家」――パレスチナ/イスラエルにおける国家理念の行方」というエッセイを書きました。併せてご一読いただければと思います。また、他にもこの特集号には重要な対談や論考が収録されています。ご購入いただければ幸いです。4月28日発売。)

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