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2007.06.15

ハマスとファタハの抗争と連立内閣崩壊を言う前に――意図的な連立潰し

Posted by :早尾貴紀

 ガザ地区を中心としたハマスとファタハとの抗争によって、この一週間での死者は100人に達しようとしている。何回目かになる「最悪」の更新である。ファタハによるハマスのハニヤ首相私邸への攻撃と、ハマスによるファタハ系の治安局・情報局・大統領府の制圧により、アッバース大統領は最終手段としてハニヤ首相の解任と非常事態宣言を行なった。その意味では、これが「最悪」の事態であるのは確かだ。
 この「内戦」状況については、すでに何度も書いてきたところだ。( 「ハマス対ファタハの内戦?ーー問題点の再整理」
 ここのノートで改めて振り返って強調しておきたいことは、今週になって抗争が再燃する前に、何がその背景にあったのか、である。

 5月下旬から6月上旬に、今回の事態を予兆させることがいくつか報道されていた。以下、見出しを拾ってみる。
◇「アメリカがイスラエルに対して、ガザ地区のアッバース親衛隊を支援強化するよう圧力」(5/20、ハアレツ紙)
◇「イスラエル、アッバース親衛隊の軍事訓練をジェリコ近郊で許可」(5/24、ハアレツ紙)
◇「ファタハからイスラエルへ:ハマスとの戦闘のためにわれわれに武装許可を」(6/7、ハアレツ紙)

 これらの見出しからだけでも、アメリカとイスラエルが、ファタハのハマス攻撃を助長していたことが明白だ。昨年からすでに、ハマス内閣のボイコットがなされている一方で、ファタハ・アッバース大統領への資金援助と武器供与がイスラエルとアメリカによって何度か行なわれてきた。その動きが、この5月から急速に進められていたのだ。これは、その少し前3月下旬に発足したハマスとファタハによる連立内閣を崩壊させることを目的としていると見るべきだ。
 ハマスの政策がどうあれ、国際的監視下での公正な選挙によるハマス内閣の成立は、パレスチナ人の民主主義の結果であり、それをボイコットするということ自体が、制裁などではなく、パレスチナ人全体への不当な集団懲罰であった。これには、イスラエル、アメリカだけでなく、日本や欧米諸国なども加担し、パレスチナ社会に多大な損害と混乱をもたらした。
 このボイコットを回避する目的もあり、何度となくファタハとの連立交渉が進められてきたが、それがこの3月にようやく妥結し連立内閣が発足した。これは、言うまでもなく、ハマスとファタハとの合意によるものであり、もちろん議会制民主主義の制度下における内閣の再編である。ファタハの内閣参加によって、国際社会のなかにパレスチナとの外交や支援を再開する動きが出てきたが、これをイスラエルとアメリカは牽制していた。だが、ファタハへの肩入れを進めてきたイスラエルとアメリカが、ボイコットの名目をますます失っているという事態は変わりない。残された手段は、「内紛」・「内戦」を焚き付けて、連立そのものを崩壊に追い込むことしかなかったのだろう。

 先の5・6月のハアレツ紙の記事の大筋はこうだ。
 とりわけハマス勢力の強いガザ地区における軍事的なバランスを「是正」するために、そしてガザ地区の「治安」強化のために、ファタハ軍・アッバース親衛隊を増強するべきだ、というのがアメリカ軍からの助言であった。この時点で、すでに500人の大統領親衛隊がエジプトで軍事訓練を行ない、ガザ地区に投入されていたが、西岸地区ジェリコ地域でもファタハ軍の軍事訓練を行なうことを認めるよう、アッバース大統領および、(なんと!)アメリカがイスラエルに求めていた。これが5月末に認められたのだ。
 またこれに先立って、イスラエルは数千丁のライフルと弾薬をアッバース親衛隊に引き渡すことに合意。しかし重火器については拒否。6月に入り、ファタハが、改めて重火器による武装の許可をイスラエルに求めた。エジプトなどからロケット・ランチャーや手榴弾、装甲車両などの装備を入れる用意がすでになされているとして、その持ち込みをイスラエルに打診したところ、その回答はその記事の段階では保留。先のライフル銃も含めて、こうした武装についての是非は、ファタハ、イスラエル、アメリカのあいだで協議されている。

 これが、ハマスとファタハの「内紛」が今週激化する直前、先週末までの動きである。今度のガザ地区の混乱(そして今回は西岸地区との分裂をも招きかねない深刻なものとなっている)が、イスラエルとアメリカによって焚き付けられたものであることは、地元紙の報道からも明白である。もちろんそれがわかっていながら、現場では抗争を止めることができないというのは、ひじょうに歯がゆい事態であるし、またかりにそれを止めようと努力をしたところで、無数の内通者と工作員(つまり地元ガザのコラボレーターと、イスラエル軍や諜報機関から送り込まれ地元住民を装い抗争を煽る活動家)が潜入して組織的に「内紛」が誘発されている以上は、争いを阻止することは容易ではない。
 しかし、少なくとも国際社会は、イスラエルやアメリカに同調することなしに、ハマス内閣や連立内閣と外交・支援関係を結ぶことでこそ、パレスチナの民主主義を信頼し発展に貢献すべきではなかっただろうか。

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