2007.08.30
[翻訳] 周波数帯をがっちりと握ること/アミーラ・ハス
Posted by :岡田剛士
手短な解題
このアミーラ・ハスの文章は「携帯電話(あるいは電波)と占領」という切り口での短いものだが、分かりやすいなと思ったのと、切り口それ自体も面白いと思ったので訳してみた。
文中、パレスチナ当局の電気通信省に関連して「1994年に同省が設立」とある。つまり、この文章で指摘されている周波数帯の割り当て調整問題の背景にあるのは、1993年9月のオスロ合意(暫定自治政府の取り決めにかんする諸原則宣言[DOP])以降の和平プロセスだ。
DOPの「付属文書3 経済発展計画〔複数〕におけるイスラエルとパレスチナの協力についての議定書」には次のようなくだりがある。
「両者は、イスラエル・パレスチナ経済協力継続委員会の設立に合意する。これは、とりわけ以下に焦点を当てたものである。〔中略〕5.運輸・通信分野での協力。ここには、ガザ港湾地域の設置に向けた指針の設定と、西岸地区・ガザ回廊とイスラエル、また他の諸国との間の運輸・通信網の建設に向けた準備のための計画が含まれることとする。さらにこの計画は、道路、鉄道、通信網など必要とされる建設の実行を準備することとする。〔中略〕11.通信とメディアの分野での、開発調整・協力のための計画。」
つまり、本来ならばイスラエル政府とパレスチナ自治政府との間で、さまざまな協力や調整のための交渉が行われることとされていたわけだが、それらが頓挫したままであり、結果的に携帯電話などで使うための周波数帯の割り当て調整も進んでいない、というわけだ。
日本語では遠距離通信、電気通信などと訳される「telecommunication」の「tele-」が、パレスチナ人たちにとっては単に物理的な「遠く離れた」状態を意味するのではなくて、云わば「強いられたtele-communication」ですらあると言えるだろう。
〔訳者〕
出典:「New Profile(新しい横顔)」のメーリング・リスト/2007年5月31日付
(元テキストは『Ha'aretz』紙/2007年5月31日付 Holding on tight to the frequencies または、The Occupation Magazine によるアーカイブ)
周波数帯をがっちりと握ること
署名:アミーラ・ハス
空中は、イスラエルがパレスチナ人たちに強いている道路封鎖と分断統治体制からの抜け道の一つだ。でもイスラエルは、空中においてすらパレスチナ人たちを苦しめている。つまりイスラエルは、パレスチナ人たちには、そのハイテクに対するニーズ、さらには経済的・社会的、そして個人的なニーズに応えるための携帯電話用の周波数割り当てを行おうとしないのだ。もっと正確にいうと、国際電気通信連合〔ITU〕によればパレスチナ人たちが当然手にすべき移動体通信用の周波数帯を彼らが使えるようにするための調整作業を、イスラエルは拒否している。
〔イスラエルの〕電気通信省は、ハマース〔イスラーム抵抗運動〕が主導する政府とはいかなる交渉も行わないがゆえに調整作業も行わないのだ、と主張している。都合の良い言い訳、でも完璧じゃない。なぜならばハマース主導の政府が立ち上がる以前ですら、周波数帯の追加にかんする調整を求めるパレスチナ人たちの側からの要求は無視され続けていたからだ。パレスチナの携帯電話会社ジャウワールは、会社設立から2年後になって、1999年に割り当てられているはずだった周波数帯をようやく手にしただけなのである。今年〔2007年〕3月、ジャウワールにはアル=ワタニーヤという競争相手が現われた。クウェイト系の会社ワタニーヤ・インタナショナルは、2006年末にパレスチナ当局〔PA〕の入札で指名された。アル=ワタニーヤの株式は、同インタナショナル社とパレスチナ投資基金(PIF)、そして一般投資家が保有している。専門のイギリス人経営陣が指名され、500人の雇用が約束されたが、でも周波数帯は割り当てられていない。
空中の重要性は、次のようなデータに示されている。つまりジャウワールには約80万人の加入者がいて、これはパレスチナ人の携帯電話市場のおよそ60%だ。エコノミストたちは、この市場での約40%のシェアはイスラエル側の企業が占めていると見積もっている。およそ400万人のパレスチナ人が130万台以上の携帯電話を所有している。2台−−つまりパレスチナ側の会社の携帯電話とイスラエル側の会社の携帯電話を−−持っている人もいる。アラブ世界における高速データ通信システムADSLの利用者数では、パレスチナ人は第3位。さらにパレスチナ人たちは、その議会−−パレスチナ立法評議会−−や省庁で、また民間のビジネスで、ビデオ会議サービスを頻繁に利用している。
これが、ガザ回廊と西岸地区の分断を、ジェニーンとラーマッラーの間の道路封鎖を、パレスチナ人たちが克服するための手だてなのだ。数十キロ離れて住んでいたり、5年間あるいはそれ以上も長く直接会えないままの家族は、電話やスカイプ〔Skype〕、そして電子メールの利用で埋め合わせることを学んできた。パルテル(Paltel/パレスチナ電気通信社/ジャウワールは、その子会社である)が、パレスチナで最も収益の高い企業だというのは当然のことだ。
何十枚ものインターネットと情報技術にかんする企業の営業許可申請書類が、パレスチナの電気通信副大臣スレイマーン・ズヘイリーの机の上に積み重なっている。彼は、1994年に同省が設立されて以来その任にあるのだが、これらの申請を承認することができない。割り当てる周波数帯がないからだ。
一方にはパレスチナ人たちのバラバラに分割された居住地域があり、他方にはC地域(イスラエル側が完全に支配している)と複数の入植地群−−これらは西岸地区の60%を占めている−−があるために「境界線」が幾重にも込み入って存在している。こうした地政学的な現実ゆえに、イスラエルとPAとの間では非常に高度な調整作業が必要となる。でもイスラエルが周波数帯の配分と利用についての調整に同意しない限り、C地域に適切な機材を設置することは不可能だ。地上の有線通信網を整備してゆくことすらままならない理由もここにある。市民行政府の監督なしにC地域に機材を設置して、イスラエル防衛軍のブルドーザーの急襲で設備が破壊されてしまうという危険を冒すような民間企業などあり得ないからだ。
イスラエルの電気通信省はこの件への関わりを一切否定しているけれども、パレスチナ人たちの側に周波数帯が割り当てられていないことが、ジャウワールと競合するようなイスラエル側の複数の企業に有利な条件をもたらしているのは明らかだ。(これらのイスラエル企業は、その携帯電話がパレスチナ人たちの領土で利用されているにも関わらず、PAに税金を支払ってはいない。)
周波数帯を割り当てないこと自体が、イスラエルがパレスチナ人たちに対して行っている経済的な戦争の一つの戦線なのだ。それは、収入と雇用の直接的な損失をもたらすばかりか、空中を利用することで地上の道路封鎖と人種隔離のための道路網を克服し得る、そのような経済的な特定分野での発展に向けた希望を阻害することをも意味している。
〔翻訳:岡田剛士〕
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