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2009.05.28

村上春樹のエルサレム賞受賞は、改めてやっぱり問題だったという気が、、、

Posted by :早尾貴紀

 昨日(5月27日)発売されたという村上春樹(以下敬称略)の最新小説『1Q84』が、発売前からのAmazonでの予約数が1万を越えたということで、前代未聞の反響らしい。今朝(5月28日)も、朝からNHKのニュースで大きく取り上げていました。

 僕個人としては、どうしてこの小説のタイトルが、ドクトル梅津&浅田彰が1984年に出した『1Q84』(カセットテープ付き、ペヨトル工房)と同じなのか、意識してないはずはないと思うので、そのあたりの意図は何かな、と気になるぐらい。ドクトル梅津ファンとしては。
 この機に便乗して、ドクトル梅津&浅田彰の『1Q84』をCDブックで復刊してくれる出版社は現れないかと期待したり(ペヨトル工房は倒産してしまったので)。

 それはさておき。
 今朝のNHKの村上春樹の大反響についてのニュースを聞いていて、エルサレム賞受賞がこういう傍証として利用されるのね、ということを目の当たりにして、どうでもいいというよりは、やっぱり問題点のほうが大きかったかな、と思い直しているところです。
 すでに、「 村上春樹のエルサレム受賞騒ぎが一段落したあとに、藤井貞和『湾岸戦争論』を読み返す 」を遅ればせながら書いて、村上春樹のパレスチナ/イスラエルに関する発言そのものにさほど関心がないこと、評価するとか批判する以前の話だと思っていること、を書きました。いまでも論じようという気は起きません。
 ただ、今朝のニュースで、『1Q84』がものすごい売れ行きであること、それから世界中からすでに翻訳のオファーがあって、村上春樹の人気は海外にまで広がっていること、が語られていました。が、そのことの傍証として、真っ先に紹介されたのが、今年2月のエルサレム賞受賞とイスラエル国内での広い読者層。「権威ある文学賞であるエルサレム賞」を受賞したということは、村上文学の普遍的人気の証左なのだそうです。
 もちろん、この1月のガザ攻撃のことも、そのために受賞ボイコット運動があったことも、一切NHKは触れていません。ただ好意的にエルサレム賞受賞を伝えるのみです。

 ああ、いかにもという形で見事に使われたな、と思いました。
 結局、村上春樹側とイスラエル側の双方にとって、エルサレム賞受賞は、相互利益だったということになるでしょう。それを見越して、エルサレム市は村上春樹を招待し、村上春樹もそれに応じた。暗黙の共謀関係と言ってもいいかもしれません。
 受賞スピーチ直後は、こまかな比喩的文言をめぐって、イスラエル批判がどれぐらいあるか、それを肯定的に評価していいのかどうか、ってことが一部のあいだでは大きな議論になっていたようですが、果たしてその効果としては、批判性など一片も残ってはいません。残るのは、ただ「権威あるエルサレム賞を受賞した」という事実のみ。

 最近、松葉祥一「村上春樹のエルサレム・スピーチを批判する」という論考が、 『オルタ』3-4月号 に掲載されました。
 ひじょうにまっとうな批判だと思いました。イスラエル、パレスチナどっちの側も支持しない、という村上春樹のスタンスは、結局のところ相対主義に陥ってしまい、結局「どっちもどっち」という議論に還元され、批判力そのものを失ってしまっているのではないか、と。そして、村上春樹自身が文学(者)の役割として自任するところの、「最も弱い者の側に立つ」という立場を自ら裏切っているのではないか、と。
 実際、そうなっていると言わざるをえないと思います。

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