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2011.04.23

パレスチナでの気になる動き(その1):差別的法案の成立

Posted by :蝦沢 薫

 東日本大震災の被災者の方々に心からお見舞い申し上げます。それに続く原発事故による放射能汚染の危機が日本全国を覆い、日本は未曽有の大惨事に直面しています。しかしながら、その間パレスチナでも、懸念すべき事態が着実に進行しています。

 この3月、イスラエルのアラブ市民(*1)の権利侵害が懸念される三法案が、イスラエルの国会であるクネセットにて可決されました。Adalah -The Legal Center for Arab Minority in Israel(イスラエル国内と被占領地のパレスチナ人の権利を求めるイスラエルのアラブ市民を中心とする人権団体)によれば、2009年のネタニヤフ政権誕生以降、特にイスラエルのアラブ市民を標的とする差別的な法案が次々に審議されており、その中でも重要と思われる20法案について説明しています( 参照 )。
 今回可決された法律は、通称「ナクバ」法、「受入れ委員会」法、「市民権」法の3つです。

1. ナクバ法について
 ナクバとは、大災厄を意味するアラビア語ですが、1948年のイスラエル建国により歴史的パレスチナが失われ、パレスチナ難民が発生したパレスチナ民族にとっての悲劇的破局と喪失を指します。毎年イスラエルの建国記念日(*2)には、イスラエルのアラブ市民は民族の悲劇を追悼し、記憶する行事を開催します。それは、ナクバについての勉強会であったり、破壊された村への訪問であったり、デモ行進であったりと様々です。
 イスラエル社会では、ようやく2000年頃になって、ナクバという言葉を使うことも、「ナクバ=パレスチナの悲劇(破局と喪失)」を語ることも容認されてきたようです。私がエルサレムにいた2000年5月には、イスラエルの国営放送にてナクバについての番組が放映されると話題になっていました。もちろん、それ以前から徐々にイスラエル社会での認識が高まってきたのでしょうが、イスラエル建国にかかる神話ともいえる公式見解とは相反するナクバという言葉と史実が公然と認識されるようになったのは、比較的最近のことと言えます。2000年9月末に始まった第二次インティファーダの影響で、イスラエル社会はさらに右傾化し、ナクバ認識への逆風が強まり、ナクバを完了させるべくパレスチナ人の「追放」の機運すら高まっている一方、イスラエルのアラブ市民の組織力は強まり、ナクバの継承が続けられています。(*3)
 今回成立した「ナクバ法」(正式には、Budget Principles Law (Amendment 39) – Reducing Budgetary Support for Activities Contrary to the Principles of the State。極右政党イスラエル・ベイテイヌが提案)は、イスラエル政府から資金援助を受ける団体がナクバ関連の活動を実施することを禁じるものです。さらに、「ユダヤ民主国家」というイスラエルの定義に反するとみなされる一切の行為や活動は、国家の存在を脅かすとして禁止対象になっています。違反した団体に対しては、活動費用の最大10倍の罰金が科せられ、財政支援の削減または停止の対象となります。この法律により、政府から資金援助を受ける団体として、学校などの教育機関やその他の公共機関(市町村役場、文化施設、コミュニティーセンター、図書館など)、政治団体、市民団体、人権擁護団体、その他NGOが影響を受けます。

2.「受入れ委員会」法(または、「地域への受入れ」法)について
 ネゲブ地方とガリラヤ地方にある400世帯までの小さな居住地域(約700か所)において、それぞれの地域が設立した「受入れ委員会」が居住希望者を審査し、受入れの可否を判断する権限を与える法です。これまでも「受入れ委員会」が入居を拒否する事態は起きていましたが、その権限が法的に保障されたことになります。これにより、「地域の特性に適さない」「調和を乱す」などの理由により、アラブ市民が入居を拒否されることが懸念されています。また、民族的理由に限らず、家族構成(片親家庭や同性家族など)、宗教、障害や病気などの有無といった理由で拒否される可能性も指摘されています。
 本法案が、3月22日にクネセットで可決されたのを受けて、既にACRI(Association for Civil Rights in Israel:イスラエル最大の人権団体)が3月23日に高等裁判所に法律の無効を求めた( 参照 )のに続き、Adalahも3月30日に最高裁判所に申し立てを行っています( 参照 )。

3.「市民権」法について
 極右政党イスラエル・ベイテイヌが提案し、「国家への忠誠なくして市民権はなし」との掛け声のもと、3月28日に可決されたこの法律は、スパイ行為、テロ行為、戦時中に敵を助ける行為で有罪となった者から市民権をはく奪するものです。また、イスラエル国籍を持たない東エルサレムのパレスチナ人については、テロ組織の幇助にあたって、「永住権」がはく奪されることになります。いずれにせよ、彼らが受けている国からの手当てや福祉は失効します。現在のところ、市民権の完全なはく奪は二重国籍者に限られ、イスラエル国籍のみの保有者については、市民権を失い、外国人労働者と同様の地位が与えられることになります。
 また、同じ日には、アズミ・ビシャラ元クネセット議員(*4)に対する年金などを含む議員俸給を失効させる法律も成立しています。この法律は、ビシャラ元議員の国外逃亡を受けて提案され、犯罪の容疑をかけられた、もしくは有罪判決を受けた現職および引退したクネセット議員が刑事裁判に出席しなかった場合に、議員年金の受給資格をはく奪するものです。

 これらの法律の成立は、イスラエルの「ユダヤ民主国家」の完成へ向けた動きに後押しされたものであると同時に、その動きを強化するものと言えます。こうして一歩ずつ排他主義が確立し、パレスチナ人追放の実現を目指しています。(*5)


*1 パレスチナ人は、イスラエルのアラブ市民について「48年(のパレスチナ人)」という呼称を使います。1948年のイスラエル建国時にイスラエルとなった土地に留まり、イスラエル国民となったパレスチナ人を指します。
*2 イスラエルでは独立記念日と呼びます。イスラエルが独立を宣言したのは、1948年5月14日でしたが、イスラエルでは毎年ユダヤ暦に従い独立記念日を祝います。
*3 イスラエル社会におけるナクバ認識については、イラン・パペの解説を参照ください( 参照 )。
*4 ビシャラ元議員は、2006年夏の第二次レバノン戦争時に、イスラエルの敵であるヒズボラを幇助した(情報供与)との嫌疑をかけられ、取り調べ開始前の2007年3月に国外へ逃亡しました。
*5 以下の 関連記事 も参照ください。

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