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イスラエル紙『ハアレツ』英語版

Posted by:早尾貴紀

Haaretz
haaretz.com

いわゆるNGOのサイトではありませんが、パレスチナ/イスラエル問題を考える上での基本サイトとしてご紹介します。

イスラエル/パレスチナの新聞事情と『ハアレツ』の位置

イスラエルの新聞業界の中で置かれている『ハアレツ』の位置は、中道左派の(やや)インテリ紙。もちろん、左派とは言っても、全体が右傾化しているイスラエル社会の中の左という意味だから、パレスチナ側から見たらとても左とは言えないものですが、一般のイスラエル・ユダヤ人からすると、パレスチナ寄りの「偏向新聞」。

イスラエルにはその他のヘブライ語紙としては、『イディオット・アハロノート』と『マアリブ』が大衆紙として知られており、イスラエルの一般的な世論を知るには実は重要なのですが、英語サイトがありません。『ハアレツ』は充実した英語版を紙でもサイト上でも出していまので、外国人の読者にはひじょうに助かります。他方、英語紙としては『エルサレム・ポスト』がありますが、これはかなり鮮明に右派色(反パレスチナ)を出しています。お勧めはしませんが、論調を比較するのにはいいかもしれません。

『ハアレツ』は、アラビア語紙と比較しても、情報の広さとバランスは群を抜いていると言えるでしょう。『アル・クドゥス』や『アル・アッヤーム』などがポピュラーですが、英語版がありません。また、情報格差のために、『ハアレツ』がパレスチナ自治区のこともフォローしているのに対して、アラビア語紙はイスラエル側の動きには弱い傾向があります。イスラエル側で出されている週刊アラビア語紙として『クッル・アル・アラブ』がありますが、実は『イディオット・アハロノート』の提携紙です。英語であれば、『エルサレム・タイムス』がありますが、パレスチナ自治政府の出資であるため、直接的に論旨が自治政府の影響を受けています。このことは、『アル・クドゥス』などのアラビア語日刊紙についても言えることです。

このため、ヘブライ語に堪能なイスラエル国籍ないし東エルサレムのパレスチナ人にとっても、もっとも信頼の置ける情報源として広く読まれています。

お勧めのポイント
  1. 紙で出されている『ハアレツ英語版』のほぼ全文が約一週間ほどサイト上で読める。日本の新聞のように、速報要約だけの公開ではない。論説記事や、内容の濃いレポートが載る週末附録のHaaretz MagazineおよびWeekend Haaretzまで全文読める。しかもほぼすべてが署名記事。

  2. その中でも、Gideon LevyとAmira Hassの二人の記者は双璧。パレスチナ自治区の中に自ら入り、事実に基づいた、そしてパレスチナ人の目線に立った記事を書き、穏健左派の立場以上に原則的な見方を貫いている。

  3. 「和平推進派」を自任しており、煽情的な論調は控えられている。兵役拒否者の動きや、イスラエル国内の矛盾・対立もこまめにフォローしている。

注意や留保が必要と思われるポイント
  1. 一、労働党の見解を一定は反映しているため、その最良の記事であっても、シオニズム(「ユダヤ人国家」の純粋性・至上性は不可侵のものという思想)を保持しているという限界を免れることはできない。
  2. 労働党の凋落、和平派の弱体化が著しいため、わりと穏当と思われる(逆に言うと「この程度か」と思われる)見解でさえも、イスラエル社会全体の中では、「稀有な良識派の声」として過大に響きかねない。
  3. ヘブライ語版の全訳ではない。細かな記事がいろいろ訳されないのは仕方がないにせよ、英語表現においても国際社会を意識して文章が改められ部分的に記事のトーンが変わったり、ときおり意図的と思える記事の選別が行なわれることもある。重要だと思われるヘブライ語版の記事が、丸ごと英語版には掲載されていないなんてことも。

ということで、『ハアレツ』はパレスチナ問題を「イスラエル問題」として考えていく上では必読であり、既存の新聞としては「ベスト」のものであると同時に、左派であろうともシオニストがシオニストであるかぎりは免れることのできない限界を持っているということには留意が必要です。つまり、『ハアレツ』の中にはイスラエルの中にある「良識」を垣間見ることができると同時に、その良識だけでは根本的にはどうにもならない「限界」も見えてきます。占領政策を批判し入植地を批判することはできても、「イスラエルがユダヤ人だけの国家でなくてはならない」という思想は捨てられない。「シオニズム左派」から「非シオニズム」「反シオニズム」までは、まだまだ大きな溝がありますが、その「溝」を見極めることは大事なことだと思います。

イスラエル紙『ハアレツ』英語版

http://www.haaretz.com (別のウインドウで開きます)


かねこあさみ

新聞のなかではハアレツ英語版の利用頻度が最も高い気がします。アミーラ・ハスとギデオン・レヴィの記事が出ることも大きいのですが、日本の新聞ではまったくカヴァーされていない詳細に触れられることが一番。ただし、いつも「これはイスラエルで報道されているものだ」という意識を持って読むようにしています。

2003.12.06

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